パーキンソン病は進行性の疾患であり、徐々に日常生活に影響を与えます。
そんなパーキンソン病について本人や周りの家族が知っておきたい病状についてやリハビリの重要性、自宅でもできるリハビリのメニューや生活環境を整えるポイントなどを詳しく解説しています。
パーキンソン病は病院だけでなく自宅でもリハビリを継続することが大切です。
長く自宅での生活が送れるように注意するポイントと合わせて参考にしてくださいね!
まずはパーキンソン病について理解しよう!
パーキンソン病は進行性の神経変性疾患で多くの場合、中高年以降に発症し、日常生活に様々な影響を与えます。
ここではパーキンソン病について知っておきたい原因や特徴的な症状などについて整理しておきますね。
原因は?
パーキンソン病の原因は、主に脳内の神経伝達物質であるドーパミンの減少によるものです。
特に中脳の黒質と呼ばれる領域でドーパミンを生成する神経細胞が減少することで運動の調整を難しくし、結果として様々な運動障害を引き起こしますよ。
このドーパミンを生成する神経細胞の減少がなぜ起こるのかについては、まだ完全には解明されていません。
主な症状は?
パーキンソン病は運動機能に影響を与えるものが多く、特徴的な4つの症状が挙げられます。
【パーキンソン病の特徴的な症状】
- ふるえや振戦(しんせん)
- 筋固縮(きんこしゅく)
- 無動や寡動(かどう)、動作の緩慢さ
- 姿勢反射障害
以下に、主な症状について詳しく説明します。
①ふるえや振戦(しんせん)
パーキンソン病の特徴的な症状の1つに手や足のふるえがあり、このふるえを振戦(しんせん)と呼びます。
パーキンソン病でのふるえは静止しているときに特に顕著に現れ(安静時振戦)、運動や動作を開始するとふるえが収まることも特徴的です。
この手や足のふるえによって、日常生活で物を持つ際などに支障をきたすことがありますよ。
②筋固縮(きんこしゅく)
パーキンソン病の方は筋肉が凝り固まりやすくなり(筋固縮・筋強剛)スムーズな動作が行いにくくなります。
筋固縮は関節周辺の筋肉に現れやすいのですが自分ではあまり分からず、他人に手や足などを動かされた時にカクカクとした歯車様の抵抗を感じることが特徴です。
③無動や寡動(かどう)、動作の緩慢さ
パーキンソン病の症状で見られる無動や寡動は動作が少なくなり、動作のスピードが遅くなったりする現象です。
例えば、歩行や立ち上がりの開始が困難になることがあり、日常の動作が遅れることが多くなりますよ。
特に歩行の際には足が前に出にくくなる「すくみ足」や小刻みな歩幅になる「小きざみ歩行」になることが多くなります。
④姿勢反射障害
パーキンソン病が進行してくると体のバランスを保つのが困難になる姿勢反射障害も起こります。
この姿勢反射障害が起こるとバランスを崩した時に姿勢を立て直すことが難しく倒れやすくなります。
また歩行中にだんだんスピードが加速して突進するように歩いてしまう「突進歩行」となり、歩行時の転倒リスクが高まりますよ。
その他の症状
その他のパーキンソン病の症状として、以下の症状も挙げられますよ。
・認知機能の低下
・抑うつ・気分の低下などの精神症状
・便秘や立ちくらみ・めまいなどの自律神経症状
・不眠や日中の眠気などの睡眠障害
・疲労や疼痛、体重の低下など
このようにパーキンソン病では様々な症状があり、その中でも日常生活に支障が出たり、転倒のリスクがあるものがあるので注意が必要です!
またこのパーキンソン病は、発症するとゆっくりと病状が進行していくのが特徴でもあります。
では次に、パーキンソン病の進行による病態の変化についても解説していきますね。
パーキンソン病の病態について理解しよう!
パーキンソン病は発症すると徐々に進行していく病気であり、リハビリ生活を進める上で現在の病態を把握し病状の変化を確認することは重要です。
ここではパーキンソン病の能力低下の評価法としてよく使われているHoehn-Yahr(ホーン・ヤール)の重症度分類表を参考に、障害のステージとその時期に見られる日常生活への影響について解説しますね。
Hoehn-Yahrの重症度 | 説明 |
ステージⅠ | 片側のみに症状が現れる(片側性の障害)。日常生活にほとんど影響はない。 |
ステージⅡ | 両側に症状が現れ、姿勢の変化が明瞭となってくる。日常生活への影響は軽度。 |
ステージⅢ | 著名な歩行障害が見られ、立ち直り反応が不可能。突進現象や日常生活への影響がかなり見られる。 |
ステージⅣ | 日常生活同だの低下が著名となり、歩行、起立位、衣服の着脱、洗面、排便などの日常生活において助けが必要。 |
ステージⅤ | 車椅子や寝たきりの状態になり、全面的な介護が必要。 |
Hoehn-YahrのステージⅢ・Ⅳ以降で日常生活に部分的に介助が必要になり、ステージⅤでは全面的な介助が必要となります。
僕たちリハビリスタッフは介助が必要となる前から介入し、できるだけ自分で日常生活を送れるようにアプローチしていきます!
では次に、パーキンソン病の治療についてもご紹介していきますね。
パーキンソン病の治療について理解しよう!
パーキンソン病の進行を抑えるために、また日常生活動作能力を維持するためにパーキンソン病治療についてもご紹介していきますね。
治療法には何があるの?
パーキンソン病の治療には大きく分けて薬物療法と運動療法(リハビリテーション)、手術療法があります。
薬物療法
薬物療法は脳内の神経伝達物質であるドーパミンの不足を補うための薬を使用するもので、症状の進行を緩和するのに役立ちますよ。
運動療法
また運動療法は機能低下を防止し患者さんの生活の質を向上させるために行われるもので、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などが指導を行います。
この運動療法は病院や施設の入院期間中だけでなく、自宅でできるリハビリを継続することも重要です。
手術療法
薬物療法による副作用の影響などで薬物療法が困難な場合は、手術療法がおこなわれる場合もあります。
手術には様々な方法があり、脳に電極を埋め込み脳の特定部位を刺激して症状の改善を目指す脳深部刺激療法(DBS)などがありますよ。
運動療法の重要性とは?
パーキンソン病の治療において運動療法(リハビリテーション)は非常に重要です。
退院後もリハビリテーションを継続することで筋力や柔軟性を維持したり、歩行や日常生活動作の改善を図ったりすることで、生活の質を向上させることができますよ。
特に理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などリハビリスタッフの提供するリハビリメニューには自宅でできるトレーニングが多く含まれており、患者さんは自分のペースでリハビリに取り組むことができます。
定期的な散歩やウォーキングなどの日常的な運動と共にリハビリ体操を取り入れることでより効果的に進めることができますよ。
では次に、自宅でリハビリを行う際の注意点についても解説しておきますので参考にしてくださいね。
リハビリを行う際の注意点を理解しよう!
自宅でリハビリを行う際には、いくつかの重要な注意点があります。
ここではパーキンソン病の方が自宅で安全にリハビリを行うためのポイントをご紹介しますね。
絶対に無理をしないこと!
パーキンソン病のリハビリを行う際に一番大切なのは無理をしないことです。
過度な運動や無理な動きは、症状を悪化させるリスクがありますよ。
自宅で専門のスタッフがいない状態でリハビリをする場合は、自分の体調に合わせて運動量を調整し無理のない範囲で行いましょう!
適切な環境を整える!
パーキンソン病の方が自宅でリハビリを行う場合、場所を整えることも非常に重要です。
運動中に転倒するリスクを減らすために、周囲の家具や物を片付け、広い空間を確保しましょう。
また滑りやすい床ではなく、安定した床で運動を行うようにします。これにより歩行や体操を安全に進めることができますよ。
またリハビリする時は、衣類も動きやすいものを選んでくださいね!
時間を決めて行う!
パーキンソン病では治療に使用される薬(主にレボドパ)の効果が一定しないために、“オンオフ現象”が発生します。
オン時間:薬が効いている時間帯。患者さんの動作がスムーズで、リハビリに最適。
オフ時間:薬の効果が切れている時間帯。患者さんの動きが制限され、硬直や動作困難が顕著になる
そのためリハビリテーションを効果的に行うためには、体がよく動く時間帯を選ぶことが重要です。
例えば嚥下機能が低下している方の場合は、食事時間をオン時間に合わせることで誤嚥のリスクを減らすことができます。
また日常生活動作を自立して行うための運動メニューも、オン時間に実施することで効果が高まりますよ。
継続することの重要性!
パーキンソン病の症状の進行を遅らせるためには定期的なリハビリが欠かせず、リハビリを継続することが非常に重要です。
週に何回かのリハビリ日を設定したり、散歩やウォーキングなどの軽い有酸素運動を日々の生活に取り入れたりすることで、体力や筋力を維持しやすくなります。
では次に、自宅でも簡単にできるパーキンソン病のリハビリメニューをご紹介していきますね。
自宅でできるパーキンソン病のリハビリメニュー!
パーキンソン病で病院や施設に入院された場合、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などの専門スタッフによるリハビリを受けると思います。
その際、その方に合った自主トレ用のリハビリメニューを作成されることがあるかと思いますので、まずはその自分に合ったメニューを行うことが大切です。
ここでは特に自主トレメニューがなく、何をしていいのか分からないというパーキンソン病の方が自宅でもできる一般的なリハビリの体操や運動メニューについてご紹介しますね。
柔軟性を維持するための運動
パーキンソン病の症状として、筋肉が硬くなることがよくあります。自宅でも簡単にできるストレッチを行うことで、筋肉の柔軟性を保ちましょう。
ここでは簡単にできるストレッチをご紹介していますが、痛みなどがある場合は無理のない範囲で行ってくださいね。
座ったままできるストレッチの例
首のストレッチ
①首を前後や左右へゆっくりと倒す。
②首を左右へゆっくり回す。
⇒呼吸をしながら10秒くらいかけて2~3回を目安に行いましょう。
肩のストレッチ
両手を組んだり、タオルを持って両腕を上に持ち上げる。
⇒痛みのない範囲で10回程度を1~2セットを目安に行いましょう。
体幹のストレッチ
①両腕を組んだりタオルを持って前に伸ばし、体を左右へねじる。
⇒痛みのない範囲で10回程度を1~2セットを目安に行いましょう。
②両腕を組んだりタオルも持って上に伸ばし、体を左右へ倒す。
⇒痛みのない範囲で10回程度を1~2セットを目安に行いましょう。
③椅子の背もたれがある場合は、目線を上に向け腕を広げながら背もたれにもたれて胸を広げる。
⇒痛みのない範囲で10~20秒くらいを1~2回を目安に行いましょう。
足のストレッチ
椅子に座った状態で片足を伸ばし、ゆっくりと体を前に倒して伸ばした足の太ももや膝裏を伸ばす。
⇒痛みのない範囲で10~20秒くらいを2~3回を目安に行いましょう。
顔のストレッチ
①空気を吸い込み、ほっぺを膨らませる。
②口を大きく開けたり・閉じたりする。
⇒それぞれ10回くらいを1~2セットを目安に行いましょう。
寝たままでできるストレッチの例
体幹のストレッチ
①仰向けで寝て、両手をバンザイのように伸ばし肩や背中を伸ばす。
⇒痛みのない範囲で10~20秒くらいを1~2回を目安に行いましょう。
②仰向けで寝て、膝を立てた状態で左右へ体をねじる。
⇒痛みのない範囲で10回くらいを1~2セットを目安に行いましょう。
筋力を維持するための運動
筋力が低下すると、歩行や日常生活動作が困難になることがあります。適度な筋力トレーニングを自宅で行い、足腰の筋力を維持や向上を目指しましょう。
筋力トレーニング中も呼吸を止めないように、注意してくださいね。
座ったままできる筋トレの例
足の筋力トレーニング
①椅子に浅く腰をかけ、足踏みをするように交互に太ももをあげる。
⇒左右各10回くらいを1~2セットを目安に行いましょう。
②椅子に浅く腰をかけ、つま先を上に向け片足ずつ膝を伸ばす。
⇒左右各10回くらいを1~2セットを目安に行いましょう。
寝たままでできる筋トレの例
体幹の筋力トレーニング
①仰向けに寝て、膝を立てた状態でお尻をあげる。
⇒10回くらいを1~2セットを目安に行いましょう。
②仰向けに寝て、膝を立てた状態で息を吐きながらおへそを見るように頭を上げ腹筋をする。
⇒3~5秒くらい息を吐き、2~3セットを目安に行いましょう。
立ったままでできる筋トレの例
足の筋力トレーニング
①肩幅に足を広げ、膝の曲げ伸ばしをしてスクワットをする。
※立位が不安定な場合は何かにつかまりながら行いましょう
⇒痛みのない範囲で10回くらいを1~2セットを目安に行いましょう。
②何かにつかまりながら、かかとを上げてつま先立ちをする。
⇒10回くらいを1~2セットを目安に行いましょう。
姿勢や歩行の改善のための運動
パーキンソン病の方は、姿勢が前傾したり歩幅が小さくなったりすることがあります。
姿勢を正すためにご紹介したストレッチや、足を大きく動かすウォーキングを取り入れることで、これらの問題を改善することができますよ。
歩行練習の例
①立った状態で姿勢を正し、数をかぞえながらその場で足を高く上げて足踏みを行う。
⇒10~20歩を目安に行いましょう。
②床に一定の間隔に棒やテープなど目安を作り、跨ぐように歩く練習をする。
※足が出にくい場合は、メトロノームなどでリズムを取りながら歩く
パーキンソン病の歩行練習では視覚情報やリズムを取ることが効果的ですよ。
疲れにくい身体を作る運動
パーキンソン病では、疲れやすさも問題となります。
定期的な軽い有酸素運動や呼吸法を身につけることで持久力を向上させ、疲れにくい身体を作ることができます。
パーキンソン病の方にもおすすめな有酸素運動としては、散歩などのウォーキングや軽いジョギング、水中での歩行練習やエアロバイクなどがあります。
特にウォーキングでは大きく腕を振ったり、背筋を伸ばして歩幅を広くしたり、かかとでしっかりと着地することを意識してみてくださいね!
日常生活動作を維持するための運動
日常生活動作の能力を維持するためには、シンプルな動作を繰り返し行うことも効果的です。
例えば立ち上がる動作や歩く動作を意識的に繰り返すことで、動作の安定性を高めることができます。
また日常生活で介助がまだ必要でない場合は、自分のことはできるだけ自分で行うという意識も大切ですよ。
発声や食事など口周りの運動
パーキンソン病の方は発声や飲み込みに困難を感じることもあります。
これらの問題を改善するために、簡単な口や舌の体操や飲み込みの運動を行いましょう。
また大きな声やはっきりとした発声を強調する運動やストローを使った呼吸のトレーニングなども有効ですよ。
飲み込みの機能が低下しないように、口周りのリハビリも忘れずに行ってくださいね!
このように自宅でもできるリハビリのメニューをご紹介しましたが、生活環境を整えることも重要です。
次に、パーキンソン病の方が安全に自宅で過ごせるための生活環境についてもご紹介しますね。
自宅で安全に過ごすための生活環境を整えよう!
パーキンソン病の方が長く自宅で生活を送るためには、生活環境を整えることは重要です。ここでは安全に過ごすためのポイントについて解説していきますね。
起き上がり・立ち上がりやすい環境を作る
パーキンソン病の方にとって、起き上がりや立ち上がりがしやすい環境を整えることは重要です。
ベッドや椅子の高さを調整したり、手すりやグリップを設置したりすることでスムーズな動作が可能になります。
歩きやすい環境を作る
パーキンソン病の方が自宅で安全な生活を送る上で、歩行の際の安全性にも気を配る必要があります。
床には物を置かず、歩きやすいスペースを十分に確保することが大切ですよ。
またすくみ足の防止として床に目印をつけておくことも効果的です。
さらに滑りやすい場所には滑り止めマットを敷いたり、階段には手すりを設置したりすることで、転倒を防止できます。
手すりを設置し過ぎると手すりを持つことを意識し過ぎて足がすくんでしまうことがあり反対に転倒リスクが高まるので、設置位置はよく検討しておきましょう。
体調に合わせて生活ができるようにする
パーキンソン病の進行状況やその日の体調に応じて、無理なく日常生活を送ることが大切です。
疲れやすい場合や体が動かしにくい場合は、適度な休息を取ったり椅子や電動ベッドなど動作が行いやすい環境を利用しましょう。
外出する時の注意点
パーキンソン病の方が外出する時にはできるだけ人混みを避け安全な道を選び、歩行のサポートを受けることが大切です。
散歩やウォーキングを行う際は、天候や体調を考慮し無理をせずに行動するよう心掛けましょう。
また必要に応じて、杖や歩行車などの歩行補助具なども利用してくださいね。
自宅に引きこもりにならないために、適切なサポートを受け外出機会を作ってリハビリを継続してくださいね。
パーキンソン病|自宅でできるリハビリメニューと注意点を解説!のまとめ
この記事では、パーキンソン病の原因や主な症状、治療法と自宅でもできるリハビリメニューや生活環境を整えるポイントなどをご紹介しました。
パーキンソン病は病状の進行により、日常生活に介助が必要となっていきます。
しかし現在は薬物療法を初め症状の進行を抑制することが可能となり、合わせて運動療法を行うことで自力での生活が可能です。
そのためこの記事でもご紹介したように、自宅へ退院された後もリハビリで習った運動や簡単なリハビリ体操などを継続し、自分でできることは自分で行うという意識が大切ですよ。
また自宅で安全に過ごすためには、環境を整えることが非常に重要です。
パーキンソン病の方が自宅で安全で快適に過ごせるように、リハビリの継続や環境の調整などを実践してみてくださいね。